THE SEMANTIC LAYER
会社の言葉を、AIが理解できる形にする。
文字を読めることと、意味が分かることは違います。AIが賢くなっても、その会社で「粗利」がどこまでを指すのか、誰がいくらまで決めてよいのかは、外からは分かりません。私たちはその会社固有の言葉と決まりを先に定義し、その上ではじめてAIに仕事を渡します。この層を、オントロジー(意味の層)と呼んでいます。ハーネスの五つの要素は、どれもここを見て動きます。


WHAT WE WRITE DOWN
意味の層に、何を書くか。
実体を書く。
商品、注文、顧客、出し先、請求。会社が日々扱うものを、ひとつずつ名前をつけて並べます。名前も意味も、その会社で実際に使われているとおりに定義し、その定義をAIに覚えさせます。世間一般の意味で動かれると、返ってくる答えはその会社のものになりません。
関係を書く。
このアパレル商品には、どの色とサイズがあり、どの出し先に載っていて、どの広告のカタログに入っているのか。この案件には、どの見積と、どの請求と、どの担当者が紐づいているのか。ものとものの間に、そういうつながりを一本ずつ引いて、種類まで決めます。つながりが曖昧なままだと、AIは平気で無関係な数字を並べます。
判断のルールを書く。
粗利の定義、値引きの上限、この型番がどの機種に合うのか。人が頭の中で使っている基準を、そのまま読める形で書き出します。プログラムの中に埋め込んでしまうと、変えるたびに開発が必要になるからです。
できる操作を書く。
何をしてよいか、どの条件を満たしたときに実行できるか。操作を先に定義しておくことで、定義していないことは起こらない状態を作ります。

HOW WE CHECK
合っているかを、どう確かめるか。
機械が機械を検算する。
AIを入れると、たいてい確認の仕事が増えます。出てきた数字を人が見直すからです。確かめる側も機械にしました。媒体の管理画面の数字と、自社に取り込んだ集計を突き合わせ、合わなければレポートを出しません。
合わなければ、止める。
条件が揃わないとき、それらしい数字で埋めることはしません。止まった事実と、止まった箇所を残します。
何度やっても同じ結果になる。
同じ期間を再取得すれば、同じ数字が出ます。実行のたびに値が動く集計は、根拠として使えません。
どこから来た数字かを残す。
出所と取得日を数字に紐づけて保存します。後から「この数字は何を見たのか」を人が辿れる状態にします。
WHO OPERATES IT
誰が動かすか。
実行の前に、人が承認する。
確認されていない仕事は、実行待ちにすら入りません。止めたい人が必ず止められる状態を、仕組みの側で担保します。
AIエージェントが分担する。
調査、資料、集計、照合、進行。役割の違うAIエージェントが担当を持ち、それぞれの持ち場の中だけで動きます。
仕事を型として保存する。
一度やった仕事は手順として残し、次から同じ品質で回せるようにします。担当者が抜けても、やり方が会社に残ります。
変更の記録が残る。
誰が、いつ、何を変えたのか。定義そのものの変更履歴も残すため、後から議論をやり直せます。
THE HARNESS
AIは賢い。ただ、それだけでは業務は回らない。
ここで言うモデルとは、ChatGPTやClaudeのような、考える部分そのものです。ひとつのモデルに全部をやらせる作り方は、続きません。定型の手順はプログラムで固定し、判断のいるところだけをモデルに渡す。分類は速いモデル、迷う判断は慎重なモデル。呼び出せる道具を用意し、途中の状態を残し、取り消せない操作は人に戻す。この一式をハーネスと呼びます。私たちが作っているのは、モデルそのものではなくこちらです。
- 01
TOOLS
道具
モデルは考えられますが、自分では何もできません。集計する、書き出す、送る、確かめる。呼び出せる道具を一つずつ作ります。
- 02
INTEGRATIONS
接続
業務システムには、そもそもAPIが用意されていないものが少なくありません。その場合は、人が使う画面をそのまま操作する形で繋ぎます。
- 03
FILE SYSTEMS
作業場
何日もまたぐ仕事は、途中の状態を残せないと最初からやり直しになります。作りかけの成果物と、途中の判断を置いておく場所を持たせます。
- 04
ORCHESTRATION
段取り
全部を同じAIにやらせません。分類は速いモデル、判断は慎重なモデル、書き出しは決まった手順。どれを並行して進め、どれを確認の後に回すかを決めます。
- 05
OVERSIGHT
監督
確信の低い仕事は確認待ちへ。取り消せない操作は人の承認へ。何をなぜやったかは記録に残す。私たちはこの関門を MAP(Meaning Admission Protocol)と呼び、通ってよい知識だけを実行へ渡します。
この五つが共通して見ているのが、会社ごとの言葉と決まりです。そこが決まっていないと、道具も接続も段取りも、正しいものを選べません。
WHAT WILL LAST
モデルが良くなると、この一式は要らなくなるのか。
一部は要らなくなります。計算を外の道具に任せている部分や、どのモデルに振り分けるかの段取りは、モデル自身が賢くなるほど薄くなっていきます。そうなったら、その分は削ります。
変わらないものもあります。取引先の業務システムにAPIが無いことは、モデルが賢くなっても解決しません。誰がいつ何を承認したのかを記録に残す必要も、なくなりません。会社ごとに言葉の意味が違うことも、そのままです。私たちが厚く作っているのは、そちらです。
WHERE IT SITS
空いているのは、通過を決める層です。
AIをどう繋ぐか、どう調べさせるか、どう分担させるかは、この2年で標準が揃いました。決まっていないのは、引いてきた知識をこの仕事に使ってよいかどうかの判定です。私たちはそこを、先に触れたMAPとして定めています。
| 層 | 何を決めるか | 標準 |
|---|---|---|
| 接続 | AIが、どの道具に手を伸ばしてよいか | MCP |
| 検索 | どの資料を、引っぱってくるか | RAG |
| 連携 | 複数のAIが、どう分担するか | A2A |
| 通過 | その知識を、いまこの仕事に使ってよいか | MAP |
標準を置き換えるものではありません。MCPで繋ぎ、RAGで引き、その上に一枚だけ関門を足しています。
THE METHOD
通らないものは、動かない。
AIに渡す知識には、通過条件を課しています。ひとつでも欠けているものは実行に渡りません。私たちはこの関門を MAP(Meaning Admission Protocol)と呼んでいます。意味を、実行に入れてよいかどうか審査する、という意味です。
人が確認していること
誰がいつ確認したかが、その知識に記録されている。
出所が分かること
どの文書・どの取り決めから来た定義かが残っている。
期限内であること
有効期間を過ぎたもの、再確認の期限が来たものは通さない。
その案件の範囲であること
参照できる知識を、案件ごとに閉じている。
とくに効くのは、三つ目の期限です。定義には再確認の期限を付けています。期限が過ぎたものは、正しそうに見えても通しません。危ないのは間違った定義よりも、古いまま使われ続ける定義だからです。
通らなかったとき
止まる
実行に渡りません。代わりの値を推測で埋めることもしません。
どこで落ちたかが残る
四条件のどれで落ちたのかが記録されます。「なんとなく動かない」を作りません。
人に回る
落ちたものは人の確認待ちに入ります。人が直せば、そこから先へ進みます。

- 01
構造と型と記録を、分けて持つ。
会社に何があるか(構造)、その仕事をどの順序と条件で行うか(型)、今回実際に何が起きたか(記録)。この三つを混ぜずに持ちます。混ぜると「やったつもり」が記録に残ります。
- 02
通してよい知識だけを、実行に渡す。
上の四条件を満たした知識だけが、実行へ渡ります。満たさないものは通しません。この関門がMAPです。
- 03
一周したあと、もう一度突き合わせる。
取得し、突き合わせ、人が承認し、実行し、記録し、最後にもう一度突き合わせます。合わなければ、その場で止めます。推測では埋めません。
BUILT BACKWARDS
現場の判断から、逆に作る。
データを集めてから使い道を考える順番では、たいてい使われないまま終わります。私たちは逆から作ります。まず現場でいちばん重い判断を選び、その判断に必要な言葉だけを定義し、必要な範囲のデータだけを繋ぎます。全社のデータ整備を先に終わらせる必要はありません。
WHAT STAYS HUMAN
人が決め続けること。
AIに渡せる仕事が増えるほど、人の時間は決めることのほうへ寄っていきます。手を動かす時間が減り、決める時間が残ります。
- 予算をいくらにするか、どの案を出すか。提案はAIが作り、承認されたものは機械が適用しますが、通すかどうかは人が決めます
- その会社の言葉を、何と決めるか。私たちは案を出しますが、決めるのは会社です
- 相手のいる交渉と、その場での意思決定
